🏯 江戸時代の引っ越し事情|参勤交代は22億円?

江戸時代の引っ越し事情|参勤交代は22億円?裸貸しと引越蕎麦の由来

🏯 江戸時代の引っ越し事情|参勤交代は22億円?知られざる「宿替え」文化

「引っ越し」という言葉のルーツは平安時代まで遡りますが、庶民が気軽に住み替えるようになったのは江戸時代から。現代とはまるで違う引っ越し文化がそこにはありました。

参勤交代の莫大な費用、家具を持たない「裸貸し」システム、引越蕎麦の由来、方位を気にする「方違え」、そして家に住み着く妖怪まで——。江戸時代の引っ越しにまつわる驚きの事実をご紹介します。

史上最大の引っ越し「参勤交代」

江戸時代の引っ越しといえば、まず語らずにはいられないのが参勤交代。各藩の大名が2年ごとに江戸と国元を行き来するこの制度は、軍役としての目的と、藩の財政を圧迫するための政策でもありました。

🏯 薩摩藩(島津家)の参勤交代データ

約22億円

一回の参勤交代にかかった費用(現在の価値に換算)

項目 数値
行列の人数 約1,900人
道のり 440里(約1,730km)
所要日数 約50日
費用 約17,000両

まさに県を挙げての大移動。武士だけでなく、医師や鷹匠など専門職も同行し、大名専用の風呂釜まで運んだというから驚きです。

映画「引っ越し大名!」の題材となった松平直矩は、生涯で7回も国替えを命じられた「引っ越し大名」。現代の転勤族もびっくりの頻度です。

家具を持たない「裸貸し」システム

庶民の引っ越しは参勤交代とは打って変わって、とても身軽なものでした。特に上方(大阪)では「裸貸し」が主流。これは畳も家具も一切入っていない状態で部屋を貸し出すシステムです。

裸貸しの仕組み

大阪の長屋は柱と柱の間の長さ(内法)が規格化されていました。そのため、建具や家具も流用可能。引っ越す際には古道具屋で家具を購入し、次の引っ越し時には売却する。あるいは「損料屋」と呼ばれるレンタル業者から借りて返却する——。まさに江戸時代版シェアリングエコノミーです。

江戸でも庶民の持ち物は少なく、布団二組、茶碗、鍋釜程度。大八車があれば一回で、なくても数回で引っ越しは終わったといいます。

葛飾北斎は89歳まで生き、生涯で93回引っ越しをしたと言われています。名前も30回変えたとか。年に1〜2回ペースで住み替えていた計算になります。

損料屋——江戸のレンタル業者

損料屋とは、鍋や釜といった料理道具から畳、布団、旅道具、冠婚葬祭の着物まで貸し出す商売。地方から江戸に来た行商人も、損料屋で生活必需品を借りてすぐに生活を始められました。

参勤交代で江戸詰めになった武士が、損料屋でふんどしを借りていた——という話もあるほど、あらゆるものがレンタル可能でした。

「引越蕎麦」の起源——末長くおそばに

現代でも引っ越しの挨拶にタオルや洗剤を持参しますが、江戸時代中期には蕎麦を配るのが定番でした。

🍜 引越蕎麦の由来

「そばのように末長いおつきあいを」
「おそばで末長く」という洒落も込められていました。

本来は餅やあずき粥などのハレの料理をふるまっていましたが、高価なため庶民には手痛い出費。そこで比較的安価な蕎麦が主流になったようです。

蕎麦切手——江戸の商品券

蕎麦は茹でると伸びてしまい日持ちしない。そこで登場したのが「蕎麦切手」。現代の商品券のようなもので、もらった人は好きな時に蕎麦屋に持っていき、茹でたての蕎麦と引き換えられました。

江戸時代には「蕎麦切手」だけでなく「鰻切手」なども存在。まさに商品券文化の先駆けでした。

方位を恐れた「方違え」の風習

江戸時代、引っ越しで最も気にされたのが方位です。陰陽道の影響で、凶方位への引っ越しは災いを招くと恐れられていました。

方違え(かたたがえ)とは?

凶方位へ向かう前に、一度別の方角へ移動して方位をずらす方法。例えば、現住所から見て南が凶方位なら、一度東へ移動することで、そこから見た引っ越し先は南西に変わる——という理屈です。

平安時代には特に盛んで、貴族は凶方位を避けるために友人宅に泊まったり、遠回りをしたりしました。

現代でも「方位除け」「八方除け」を行う神社があり、大阪の方違神社は今でも引っ越し前の参拝客で賑わっています。

家に住み着く妖怪たち

江戸時代、家には様々な妖怪が住み着くと信じられていました。引っ越しにまつわる妖怪伝承は、当時の人々の住まいに対する畏敬の念を表しています。

👻 座敷童子(ざしきわらし)

東北地方に伝わる子供の姿をした妖怪。家に住み着くと繁栄をもたらし、去ると家運が傾くとされました。

驚きの伝承:

  • 座敷童子は特定の人になつくと、その人が引っ越しても新居についていく
  • 岩手県二戸市では、座敷童子を居つかせるために子供部屋を作り、菓子や玩具を置く風習が今でも残る
  • 座敷童子を弓矢で射た家は没落したという伝承も

🏚️ その他の家に棲む妖怪

  • 家鳴り(やなり):家を軋ませる小鬼。ポルターガイストの日本版
  • 天井嘗め:天井を舐めてシミを作る妖怪
  • 垢嘗め:風呂場の垢を舐める。掃除をサボると現れる教訓的妖怪
  • 頑張り入道:トイレで見られている気配を感じさせる
  • ぬらりひょん:いつの間にか家に上がり込み、お茶を飲む老人の妖怪

これらの妖怪は、家を大切に扱い、掃除を怠らないようにという教訓を伝える役割も担っていました。

引っ越しにまつわる験担ぎ

家移り粥:江戸期には引っ越しの挨拶として「家移り粥」や小豆、餅を近所に配った
火と塩:新居に最初に持ち込むのは火(ロウソク)と塩。家を清め、悪霊を追い払うため
大安吉日:引っ越しは大安や天赦日、一粒万倍日などの縁起の良い日を選んだ
鬼門除け:新居の鬼門(北東)には南天や柊を植えて魔除けとした
:玄関に籠をかぶせて置く。籠の「目」が魔を睨みつけて追い払う

江戸と現代の引っ越し比較

項目 江戸時代 現代
呼び名 宿替え、家移り 引っ越し
頻度 気軽に何度も 一生に数回
荷物 布団、茶碗、鍋程度 大量の家具・家電
運搬手段 大八車、風呂敷 引越業者のトラック
家具の扱い 購入→売却orレンタル 持ち運び
挨拶品 蕎麦、餅 タオル、洗剤
敷金・礼金 敷金のみ 敷金+礼金+保証金

長屋の「大家と店子」関係

江戸時代の大家(家守)と店子(住人)の関係は、現代の不動産管理会社と入居者の関係とは比べものにならないほど濃厚でした。

「店子となったからには子供も同然」

大家は家賃徴収だけでなく、店子の就職を世話したり、お嫁さんを紹介したり。落語「餅屋問答」「持参金」には、そんな大家の姿が描かれています。

ちなみに大家の収入源の一つは、長屋の雪隠(トイレ)に溜まる糞尿を農家に売ること。江戸近郊の農家では肥料として高く売れたのです。

現代に生きる江戸の知恵

「生活は単純明快にしておけ」
——秋山好古(司馬遼太郎『坂の上の雲』より)

江戸時代の人々は、物を持たないことで身軽さを手に入れていました。火事が多く、資源も限られていた時代、必要なものは借りて使う「損料屋」のシステムは合理的でした。

現代の「断捨離」や「ミニマリスト」のブームは、ある意味で江戸時代の暮らしへの回帰とも言えるかもしれません。

江戸時代の人は「いい家があったから」という理由だけで気軽に引っ越しました。荷物が少なく、引っ越し費用もかからないからこそできた「よりよい暮らしを求める衝動」だったのです。

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江戸の人々は荷物を軽くして身軽に引っ越しました。現代では、全国の空き家情報を検索して、理想の住まいを見つけることができます。

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まとめ

江戸時代の引っ越しは、現代とはまるで異なる文化でした。参勤交代という国家規模の大移動から、庶民の気軽な「宿替え」まで、その形態は様々。

「裸貸し」と「損料屋」による物を持たない暮らし、「引越蕎麦」に込められた洒落、「方違え」という方位への畏れ、そして「座敷童子」などの妖怪伝承——。これらは単なる昔話ではなく、当時の人々の知恵と信仰が詰まった文化遺産です。

現代に生きる私たちも、江戸時代の「シンプルに暮らす」精神から学ぶことは多いかもしれません。次の引っ越しでは、少し荷物を減らして、蕎麦でも配ってみてはいかがでしょうか。

📚 参考文献:
・柳田國男『妖怪談義』
・柳田國男『遠野物語』
・『土芥寇讎記』
・宮本又次『関西と関東』(青蛙房)
・日本図書館協会「日本の図書館」
・各種引越し業界資料
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このブログを書いた人

家と民俗学と旅が好きなwebクリエイター(webアプリ、HP、動画・画像、各種コンテンツ制作)

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