代々受け継がれる住まい|1000年同じ場所に住み続ける人々

イブン・バットゥータは30年間旅をした。マルコ・ポーロは24年間旅をした。クリス・マッカンドレスは2年間旅をした。

一方、白川郷の和田家は300年以上、同じ家に住んでいる。石川県の法師温泉は1300年、46代にわたり同じ場所で温泉宿を営んでいる。山梨県の慶雲館は飛鳥時代から1300年余年、53代にわたり同じ場所で湯を守り続けている。

目次

🏡 白川郷・和田家(築300年以上)

江戸中期から続く合掌造りの民家

築年数:300年以上(江戸中期)
場所:岐阜県白川村荻町
現在の状況:居住しつつ、一部を一般公開
世界遺産登録:1995年

和田家は、白川村に現存する合掌造り家屋の中で最大規模を誇る。江戸時代には名主や番所役人を務め、焔硝(鉄砲の火薬)の製造取引によって富を得て、政治的にも経済的にも大きな力を有していたといわれている。

最盛期には20人以上の大家族が住んでいたと言われる。養蚕と焔硝生産が、大型の合掌造り民家と大家族制を生み出した。

建物はもちろん、周辺の庭や生け垣、田畑や水路なども昔のままに保存されている。「生きている世界遺産」として、今も人が暮らし続けている。

白川郷の合掌造り家屋は、江戸中期から昭和初期にかけて建てられた。古い建物で築300年。だが、昭和20年代からのダム建設や過疎化により、1924年に約300棟あった合掌造りは、1961年には190棟に激減した。

それでも、「結」と呼ばれる住民の相互扶助組織があり、屋根の葺き替えなどの家屋維持を共同して行なう慣習が今も残っている。

♨️ 法師温泉(創業1300年、46代)

北陸最古の宿、46代にわたり一族経営

創業:718年(養老2年)
場所:石川県小松市粟津温泉
現在の当主:46代目法師善五郎(2017年時点)
ギネス記録:1996年~2011年「世界最古のホテル」として登録

粟津温泉の開湯と同時に、白山開祖の泰澄大師の命によって718年に開業した。泰澄大師が粟津の地で温泉を見つけ、地元のきこりの息子であった雅亮法師に「末永く人々のために役立てるがよい」と湯守を任せた。

雅亮法師の亡き後、養子の五郎が「法師善五郎」を名乗り、二代目を継承した。この名は代々継承されており、46代にわたり一族のみで経営を続けている

玄関の梁は江戸時代から残されており、幾度かの改装を経ても、その良さを活かして使用されている。

なぜ、1300年も続いたのか。46代目の当主は言う。

「温泉旅館の主として、他の事に手を出さず『それ一本でやっていくこと』だ。儲けてお金が沢山あれば、規模を大きくしようとか、他の事を考えてしまう。それはその代では良いかもしれないが、次の代でその器が無ければそこで潰れてしまう。温泉の主であれば、お湯の事だけを考えていればよい。それ一本に絞ってやってきたからここまで長く続いた」

♨️ 慶雲館(創業1320年、53代)

ギネス認定「世界最古の宿」

創業:705年(慶雲2年、飛鳥時代)
場所:山梨県南巨摩郡早川町西山温泉
現在の当主:53代目
ギネス記録:2011年「世界最古のホテル・旅館」に認定

慶雲2年(705年)、藤原真人が流浪の途中、岩の間より噴き出している湯を偶然に見つけた。試しに入ってみたところ、体調が良くなり疲れが治った。そこで、険しい道を開き、湯つぼを造り、近隣の人々に入浴をさせたのが始まりだ。

1320年もの間、53代に渡り温泉旅館ひとすじに続けてきた。海外では1000年以上続いている企業は存在しないと言われる中、慶雲館はギネスワールドレコードで「世界で最も古い歴史を持つ宿」に認定された。

徳川家康、武田信玄をはじめ、多くの武将、文人が湯を求めて訪れた。

興味深いのは、2005年(開湯1300年)に掘削した新しい源泉だ。先代の52代社長が「ここを掘ろう」と事前調査なしに温泉を掘り始めた。絶対に温泉は出るという確信があった。700m掘ったところで、湧出量が計れない程、温泉が自噴してきた。通常、掘削温泉はモーターで汲み上げないと地上まで出てこないが、この温泉は物凄い勢いで噴き出した。

53代目の当主は言う。「大事なのは1300年続いた慶雲館を続けていくこと。それが自分の使命だ」と。

🌏 世界の「動かない人々」

日本だけではない。世界にも、代々同じ場所に住み続けた人々がいる。

イランの5000年前の集落

イラン南東部には、5000年以上前から人が住み続けている集落がある。泥レンガの家が何度も修復されながら、今も人が暮らしている。

イタリアのパラッツォ

イタリアの貴族は、何世代にもわたり同じパラッツォ(宮殿)に住み続けた。フィレンツェのメディチ家、ヴェネツィアの貴族——彼らは何百年も、同じ場所に留まった。

イエメンのシバーム

イエメンのシバームには、500年以上前に建てられた泥レンガの塔状住居が今も使われている。「砂漠のマンハッタン」と呼ばれるこの街では、同じ家系が何世代も同じ塔に住み続けている

放浪 vs 定住

🚶 放浪者たち

  • イブン・バットゥータ(30年、12万km)
  • マルコ・ポーロ(24年、15,000km)
  • クリス・マッカンドレス(2年、アラスカで死亡)
  • 山頭火、山下清、西行、芭蕉、井月

彼らは定住を拒み、世界を旅し続けた。境界を越え、異なる世界を見た。

🏠 定住者たち

  • 白川郷・和田家(300年、同じ家)
  • 法師温泉(1300年、46代)
  • 慶雲館(1320年、53代)
  • イランの5000年集落

彼らは動かず、同じ場所を守り続けた。何世代も、同じ土地、同じ家、同じ仕事を紡いだ。

イブン・バットゥータが12万km旅をした時代、白川郷では合掌造りの家が建てられていた。マルコ・ポーロが東洋を旅していた時代、法師温泉は既に500年の歴史があった。

動く自由と、動かない自由

🏡 「動かない」自由を選ぶ

放浪も良い。だが、定住も良い。同じ場所に長く住むことで見えてくるものもある。いずれも選択が第一歩

📚 あわせて読みたい

世界の放浪者たち: イブン・バットゥータ、マルコ・ポーロ、クリス・マッカンドレス——定住を拒み、境界を超えた人々。→ 12万kmを旅した男たち

参考文献

・「白川郷・五箇山の合掌造り集落」Wikipedia, 2025
・白川村役場「世界遺産エリア/白川郷」
・ホテルアラウンド高山「和田家」
・粟津温泉 旅館法師 公式サイト
・日経ビジネス「1000年以上も当主は同じ名前 奈良時代創業の温泉宿、法師」2021年
・慶雲館 公式サイト
・ITmedia「創業1300年! 世界最古の温泉宿に行ってみた――慶雲館52代当主・深澤雄二氏」2011年

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このブログを書いた人

家と民俗学と旅が好きで移動暮らししてた人

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